金襴を現代に 周敏織物の2

【佐賀錦】
佐賀の特産に「佐賀錦」という織物がある。特殊な和紙に金銀の箔を貼り、上下をそれぞれ3㎝ほど残して細かな切れ目を入れて糸のようにする。その間に「あばり」といわれる道具を使って色とりどりの緯糸(シルク)を通して織り上げる。
材料が高価な上、織る工程も総て人手によるから、極めて高額な布となる。帯地や財布、鞄などに使われる。

「高くてなかなか手が出せない佐賀錦を、もっと身近なものに出来ないか?」

と問屋さんが考えたのかどうかは、今となっては分からない。佐賀錦と同じように経糸に金糸を使った織物の注文が周敏織物にきたのである。安くするのだから、金箔を貼った和紙の代わりに金箔を蒸着したポリエステルフィルムを使う。しかも、

「折角だから、緯糸にも金糸を使いたい」

と注文主はいった。こちらも、もちろんフィルムである。

たいして難しい仕事ではない。当初周東敏夫さんは気楽に考えたらしい。ところが、織機を動かし始めて頭を抱えた。経糸としてフィルムを設置すると、織っている間にフィルムがよじれるのである。1箇所でもよじれてしまえばそこだけ光の反射具合が変わり、素人にも分かる織物の傷になってしまう。
糸のように細く、ミクロン単位の薄さのフィルムがよじれないようにする手はないか? 周東敏夫さんは、知っている限りの技を使ってみた。だが、金色のフィルムはまるでいたずらっ子だった。周東敏夫さんの努力をあざ笑うかのようによじれてしまった。

よじれ防止装置。仕組みはよく分からない。

「結局ね、父は経糸が絶対によじれない装置を、自分で工夫して作ってしまったんです。そこまで行き着くのに2、3年はかかったようです」

と周東通人社長はいった。

暴れてどうしようもなかった細くて薄いフィルムをなだめる装置。それはいったいどんな仕組みなんでしょう?

「いや、これは企業秘密でして。それほどややこしいものじゃないから、公開したらマネをされる恐れがあるんでね」

以来、周敏織物は金糸、銀糸を使ったどんな織物でも自家薬籠中のものにしてきた。金襴は周敏織物の得意技である。

ここまで書いて、ふと疑問が湧き出た。周東敏夫さんが織ったのは佐賀錦ではないのでは?
と疑問をぶつけたら、即座に周東通人社長から回答が跳ね返ってきた。

「いや、フィルムの代わりに、金箔を貼った和紙を細く切って経糸にすれば佐賀錦が織れます。父は佐賀錦の機械化に成功したのだと思っています」

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