金襴を現代に 周敏織物の3

【DNA】
周敏織物の周東拓哉専務は初対面の時、薄いブルーのシャツを着て現れた。筆者だってブルーのシャツぐらい持っている。しかし、私のシャツとどこか違う。
よくよく見ると、ボタンだった。普通使われる白っぽいボタンではなく、ブルーグレーである。それだけでも洒落た色の取り合わせだが、さらにそのボタンの裏を見ると濃い藍色だった。

「お洒落なシャツですね」

と声をかけると、

「そうですか。うーん、でもこのボタンがついていなかったら、このシャツは買いませんでしたね」

という答が戻ってきた。なるほど、専務も色の取り合わせにはこだわりがあるらしい。父から引き継いだDNAなのか。

父・通人さんと違い、拓哉専務は自ら後継者の道を選んだ。大学を出ると4年間、京都の問屋に勤め、繊維についての知識を蓄えた。

「問屋ですから、全国各地の織物が集まってきます。はい、見るだけでもずいぶん勉強になりました」

倉庫には常に1000色以上の糸が揃う。

いま、注文を受けた金襴の色のデザインは、ほとんど拓哉専務が受け持つ。1000以上もある在庫の色は総て頭に入っている。さて、この図柄を金糸、赤、緑、茶、グレーで描くのなら、どの金、どの赤、どの緑、どの茶、どのグレーを選べばいいか?
毎日が色との格闘である。

「実は、私、赤という色が苦手なんです。ほかの色だと、一番いい色目の糸を選ぶのにそれほど苦労はしないんですが、赤だけはどれにするか、いつも迷ってしまう。ひょっとしたら、私は赤が嫌いなのかも。でも、父にも相談はしません。頼っていたらいつまでたっても苦手なままですから。はい、ただいま赤を研究中というところです」

——でも、いくつもある同系統の色から、「これだ!」という色を選び出す技って、どうやって身につけるんですか?

「そうですね。4年間の問屋時代にたくさんの織物を見たことが生きているような気がします。それに、うちは機屋です。迷ったら試しに織ってみる。そんな自由がききますからね。ずいぶん無駄も出しましたが」

多くの取引先が認める周敏織物の優れた色使いはきっちりと受け継がれている。

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