花を産む さかもと園芸の話 その12 開花促進剤

シクラメンを育てるにあたり、正次さんがこだわったことがある。開花促進剤を絶対に使わないことである。

開花促進剤とは一種のホルモン剤で、これを散布すると狙った時期に花を咲きそろわせることができる。園芸農家としては、何より出荷時期の調整が楽になる。それに出荷時の見栄えを良くしたい。店頭に並んだときに絢爛に咲きそろっているシクラメンは華やかで豪華に見えるからである。使用量はごくわずかだから、コストもたいしたことはない。花屋の店頭に並ぶシクラメンのほとんどに成長促進剤が使われているのが現実である。

だが、人の身体にホルモン剤が副作用をもたらすように、開花促進剤にも副作用がある。使用量を間違うと、希に花がねじれたり奇形が出たりするのである。専門の園芸農家が使うのだからそんな間違いはほとんどないのだが、さかもと園芸は絶対に使わない。

「花にストレスを与えたくない!」

正次さんはそう考えた。
確かに、無理に花を咲かせられればストレスを感じるだろう。人間だって、健康な毎日を送っているのに、あえてホルモン剤を使う人はあるまい。花だって、自然に、健康に育ててやればいい。花を愛するとは、そういうことなのではないか?

「だから、うちのシクラメンに派手さはありません。贈答用には向かないかもしれませんが、長い間、次々に、自然に花が開いていきます。はい、ご家庭で長く楽しんでいただきたいのです」

久美子さんはそう説明してくれた。

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