花を産む さかもと園芸の話 その11 シクラメン

アジサイとともに正次さんが経営の主軸に据えたのが冬の花の王ともいわれるシクラメンだった。修行したのがシクラメンを育てている谷澤農園だったから、自然な選択でもあった。それに、シクラメンは、クリスマス向けの出荷が中心である。春から初夏の花であるアジサイと組み合わせれば、ビニールハウスを1年間、効率的に使うことができる。

シクラメンは手をかければかけるほどいい花ができるといわれる。「葉組み」といわれる作業を繰り返すのである。

シクラメンは球根から葉や花の茎を伸ばす。何もしなければ、葉や花は勝手な方向に向かってしまう。これを、花は真ん中に、葉はその周囲に広がるように整える作業を「葉組み」という。葉を外側に、花は中心部に集めることが多い。

数千鉢も並んでいるビニールハウスで、1つ1つの鉢にこの作業を繰り返す。花が付いた茎を中心に寄せ、葉の付いた茎を上手く回して花の茎が元に戻らないようにする。また、葉の付いた茎も右と左、上と下を巧みに入れ替えて全体の形がまとまるようにする。これを出荷までに5会も6回も繰り返す。この回数が多いほど姿形が整い、高い評価を受けるシクラメンになる。

「ええ、最初は正次も、日本一のシクラメンを作ってやるって意気込んでいました。でも、うちのような経営形態では無理なんですね。小規模で家族労働だけでやっているところなら夜なべ仕事でもできるでしょうが、パートさんにもお願いしなければやっていけないうちの規模では、そこまでの手はかけられないんです」

そこで挑んだのが種取りだった。シクラメンは種から育てるのが普通だが、種を蒔いても同じ花をつけたシクラメンが揃うとは限らない。花弁の形が違ったり、様々な色が出たりするのが当たり前だった。そうしたバラツキをできるだけなくそう。発色をもっと良くしよう。信頼のできる、いい種を作ろう。
種を取り、育てる。狙った花弁の形、色、丈夫さなどを備えたものだけ残し、また種を取る。こうしてバラツキのないシクラメンの種を取ろうというのである。

「坂本さんの種は実に安定している。素晴らしい!」

と高く評価したのが日本たばこ産業(JT)アグリ事業部だった。さかもと園芸でできたシクラメンの種を買い取り、生産者向けに販売するようになった。

「一時は、国産のシクラメンの種の1割を、うちの種が占めていました」

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