枠を越える 平賢の3

【これから】
薄い1枚の布の表と裏が全く違う模様の「リバーシブル手ぬぐい」を開発したのは2017年はじめだった。捺染は布に染料を押しつけて染める。勢い、染料は布の裏まで染み通る。だから、表裏で違う色柄の布に染める職人はそれまでいなかった。

リバーシブルの手ぬぐい

「まだないんなら、僕がやってみようかと」

染料を固めにすれば裏まで染み通らないはずだ。それを力を抜いて延ばせばいい。軽い気持ちで始めた。

「あ、これじゃ駄目なんだ」

何度か試し刷りして、誰もやらなかったわけが分かった。固い染料はすぐに固まるのだ。シルクスクリーン上で染料が固まれば次の染料を通さなくなり、1枚は染まっても2枚目からは染められない。1枚のシルクスクリーンで1枚しか染められないのではコスト倒れである。

ふと思い出したのは、裏地に染料がしみ出さないように染める特殊な祭半天だった。あれは先に糊でコーティングして染め、その後で蒸すと糊が溶け、染料と繊維が絡むんだったなあ。

「あれが使えないか?」

あえて色を重ねるのは小山さんのオリジナルだ。

糊付けした後、表、裏に別の模様を捺染して蒸す。「リバーシブル手ぬぐい」はこうして産声を上げた。当初は50%程度だった歩留まりも、いまでは80%までに高まった。2017年8月、東京・浅草で開かれた「技のヒット甲子園」で、ネット投票でみごとに1位の座に輝いた。

捺染では色を重ねないのが常識である。赤、青、黒の3色に染めるとき、それぞれの色の領域はきちんと分かれ、色が重なれば失敗である。

「でも、あえて重ねてみたら面白いかも」

と考えたのは小山さんが初めての職人かも知れない。
色を重ねれば、重なって部分は違う色になる。重ねる色と色を工夫すれば新しいデザインが出来る。

グラデーションに染めた手ぬぐい

捺染でグラデーションを描き出したのも小山さんが最初だろう。
染めるとき、シルクスクリーンの一番下に複数の染料を置き、隣り合った染料を混ぜてグラデーションを作って一気に染料を伸ばす。

小山さんが新しく生み出した捺染の技は、平賢のオリジナルブランド「桐生手ぬぐい」として市販されている。

——だけど、手ぬぐいだけじゃあもったいない技ですね。

と水を向けると、小山さんは言った。

「捺染にはまだまだ可能性があります。私は新しい技で桐生手ぬぐいを充実させますが、手ぬぐい以外への使い方はみなさんにお任せします。是非お声をかけて下さい」

手捺染の世界を自由闊達に動き回り、枠をどんどん乗り越える。小山さんは、間違いなくパイオニアである。

 写真:小山さんが天職を見いだす切っ掛けはこの鯉のぼりだった。

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