「私、加工屋のおっちゃんです」 Tex.Boxの1

「澤さんは今年、どんな布を作り出したのか」

三宅一生さん、山本耀司さん、コシノヒロコさん、コシノジュンコさん、ギャルソンの川久保玲さん、渡辺淳弥さんといった、世界を舞台に活躍する日本人デザイナーたちが気にかけ続ける。
日本勢だけではない。CHANEL、LOUIS VUITTON、LOEWE、LANVIN、YVES SAINT LAURENT、GUCCIなど、ほとんどの人々が知る世界のブランドも、Tex.Boxのお得意様である。デザイナーの意を受けたエージェント、デザイナーへの売り込みを狙う生地商が、年に数回ずつは桐生に足を運び、

「今年はどんな新製品がある?」

とTex.Boxを訪れる。

(ニードルパンチ加工に取りかかる澤さん)

澤さんは毎年、ニードルパンチ加工をした新しい「生地」を10数点産み出し続けている。澤は今年、どんな布を創りだしたのか? ファッションの最先端で技とセンスを競い合うデザイナーたちは、澤さんから湧きだしてくる、見たこともない表情を持つ生地から目を離せないのである。

ニードルパンチ加工が忙しいのは春先から秋までの間だ。この間は猫の手も借りたくなるが、冬場にニードルロッカーが稼働することはほとんどない。この間が、澤さんの頭がフル回転する期間である。

「まずね、生地を見に行くんです。東京の日暮里や埼玉県の行田には生地屋さんが沢山あるのでよく歩きます。桐生市内なら『さくらや』さんですね。そこで『面白いな』とピンと来る生地に出会うと創作意欲がわくんです。こいつとこいつを合わせてこういう風に叩いてやったら面白いものが出来るんじゃないか、ってね」

こうして作り上げたサンプルをそばに、澤さんは定例客の来訪を待ち受ける。新規の客を掴むために、ジャパン・クリエーションなどの展示会に出す。商談がまとまると、コストの落とし方を相談する。何しろ、サンプルはそれこそ金に糸目を付けずに仕上げているから、そのままでは相手方の算盤に乗らないのである。

そして、Tex.Boxのニードルロッカーが忙しく働き始める。

写真:ニードルロッカーの前で妻の 子さんと

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