120%ということ 須裁の2

電子ジャカードを動かすデータは社内で作る。

【120%=お節介】
2022年秋、チェック柄の織物の注文が来た。といっても言葉によるイメージだけで、具体的な図案はない。イメージを形にし、生地に織り上げるのは須永さんの仕事である。デザイナーの仕事の一部を丸投げされたようなものだ。発注者は、須永さんのセンスに余程の信頼を寄せているのだろう。
任された須永さんは、イメージを元にチェック柄をデザインする。だが、1通りにまとめ上げることはしない。例えば、色の組合せを4通り考えたとすると、1枚の試し織りに4通りのチェック柄を織り出す。幅120㎝の織物だとすると、30㎝ごとに色の組合せを変えるのである。経糸(たていと)は整経屋さんに、30㎝ごとに色を切り換えるように頼む。特殊な整経だから費用はかさむが、4枚の織り見本を織るより遙かに安く済む。緯糸(よこいと)の色の切り替えは社内の意匠士に指示する。

4通りのデザインを作るのはお節介かも知れない。しかし、比較対照できるものがあれば最終判断しやすいはずだと須永さんは考える。
もともとイメージだけによる発注だから、4枚の試し織りをし、4枚分の請求書を書くことも可能なはずである。しかし、

「お客様だって最終判断をしやすいだけでなく、安くあがった方がいいでしょう」

それが須永商法である。

野村證券のある社長が大阪支店長時代、株式市場の変調を見て取った。株価が大きく下がりそうだ。彼は得意先に、株を手放して金を買うよう説得して歩いた。長年の顧客に、野村證券離れを勧めたわけだ。そして間もなく株価は下落した。金に乗り換えて損害を防いだ客たちはそれ以降、彼を絶対的に信用したという。
筆者が現役記者時代。彼を知る人から聞いた話である。ビジネスにおける信用とは、そんな姿で形成されるものではないか。
業種は違う。しかし須永さんの「顧客ファースト」の姿勢は、筆者の目にはその野村證券社長と二重写しになる。

須永さんのお節介は、それだけではない。織り見本を求められれば、顧客の図案をもとに、ある色をトレンド色に入れ換えたり、全体のイメージを手直ししたりしたものを加える。

「口には出さなくても、新しいデザインの布を生み出すときには『本当にこれでいいのか?』と迷っている人は多い。比較対照できるものをお目にかけることで最終選択のお手伝いができないかと」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です