120%ということ 須裁の1

上にある黄色いボックスが電子ジャカード。重量鉄骨で支えられている。

【電子ジャカード】
織機に張った経糸(たていと)の上げ下げを自動化したジャカード織機には、「大塚パンチングの1」で触れた。紋紙の穴を読み取り、穴があるところは経糸を引き上げ、ないところはそのままにして織り柄を生み出すジャカード織機は機屋さんにはなくてはならないものである。
あるかないか、0と1で情報を作り出すのはジャカードだけではない。いまでは日常生活にすっかり溶け込んだコンピューターも、0と1で構成した情報で動く。「コンピューターの父」といわれる英・ケンブリッジ大学の数学教授・チャールズ・バベッジ(1791〜1871)は19世紀のはじめ、急速に普及し始めたジャカード織機にヒントを得て世界初のプログラム可能な計算機を考案した。ジャカードとコンピューターにはもともと親和性がある。
機械式で始まったジャカード織機を動かす紋紙にあけた穴が、0と1の電子情報に置き換わるのは自然な流れだった。コンピューターは当初、無数の真空管を使った巨大な装置だったが、大規模集積回路(LSI)などの開発が進んで急速に小型化が進んだ20世紀後半になると、コンピューターでジャカードを制御する電子ジャカードが開発された。紋紙はなくなり、フロッピーディスクやUSBメモリー、ついにはインターネットを介してやりとりされる電子データに置き換わった。
複雑な機械仕掛けで綜絖(そうこう)に上下運動の指令を出していたジャカードも、磁石のON-OFFで綜絖を上げ下げするようになった。電子情報は寸時に伝わる。紋紙の穴のあるなしで情報を読み取る機械式に比べてはるかに速い。このため織機の速度が上がり、生産性が高まった。
いいこと尽くめのようだが、泣き所もある。まず価格だ。かつての機械式ジャカードの数倍はする重量も遙かに増えた。機械式なら木製のフレームで織機の上に設置できたが、電子ジャカードは太い鉄骨でフレームを組まねば設置できず、これにもかなりコストがかかる。小さな機屋さんはなかなか手が出ないのが実情だ。

【120%=試作】
2026年に創業120年を迎える機屋、須裁が高価な電子ジャカード織機を導入したのは2013年のことである。鉄骨で新たにフレームを作り、フレームを支える基礎を頑丈にし、天井も高くした。それに高速に耐えられる架物も新たに作ったから、投資額は3000万円ほどに膨れあがった。従業員わずか6人の小企業には重い出費だ。

そもそも、従来通りの仕事を進めるのなら、速度を除けば使い慣れたジャカード織機で何の問題もなかった。それなのに、須永康弘社長は贅沢を承知で導入に踏み切った。

「入社してずっと、紋紙をなくさなきゃ、と思ってたんです」

紋紙は出来るかぎり処分したが、まだ工場の片隅にたくさん残っている。

紋紙とは、旧来のジャカードに経糸の上げ下げを指令するデータセンターである。ジャカード織機が発明されて以来、織機は紋紙からの司令で布を織り続けてきた。いまでも紋紙に頼る機屋さんは数多い。その紋紙をなくす?

「電子ジャカードができた今の時代、紋紙にはもうメリットがない。まずコストがかかる。使っているうちに摩擦で穴が広がって織り傷ができる。紋紙の紙も輸入品ばかりになって品質が落ちてそんな事故が増えた。何度も使うから保管場所も馬鹿にならない。電子ジャカードならそんな心配がなくなります」

なるほど。電子ジャカードの利点は分かった。しかし、そんな高額な投資に見合うほど利点は大きいのか?

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