事前に地元紙が報じてくれたためだろう。宣伝もしないのに客が来た。昼の部と夜の部に分け、各回30人の予定がすべて埋まった。
「何とか被災地の人たちに頑張って欲しいと思って」
という桐生市民がいた。
「私、実家が石巻なんです。じっとしていられなくて」
という女性がいた。
どこで知ったのか、高崎から駆けつけた人もいた。
写真家が、石巻のいまについて、なぜ石巻でレストランを開くのかについて、毎回短く話した。
聞いて、
「なんか、いま生きていられるって本当にありがたいことなんだなあ、ってしみじみ分かりました」
と涙ぐむ老婦人がいた。
みな、仙台出身のシェフが作るイタリア料理に舌鼓を打ちながら、強烈な地震と巨大な津波に襲われる恐ろしさを実感として受け止めたのではなかったか。
翌2016年2月に開いた2回目のレストランで、
「このカキ、すごく美味しい!」
と客の誰かが言い出した。石巻から直送されたカキである。
「ホントね!」
という客が相次ぎ、雅子さんは共同購入を始めた。欲しいという客の注文を集め、石巻の生産者に注文を出す。毎年の恒例行事になった。
一人一人の注文は少量でも、数十人集まると結構な量になる。
「あのう、ちょっと教えてもらいたいんだけど」
とカキの生産者から電話が入ったのは2018年の注文を出した直後だった。
「あまりに注文数が多いんだけど、ひょっとしたら石巻に同情して、食べられる量以上の注文を出してもらってるんじゃないべか?」
そんなことはないとその年の春、注文した数量のカキを「PLUS+ アンカー」まで届けてもらった。目の前で次々に客に手渡されるカキを見て生産者が大喜びしたのはいうまでもない。その年から、生産者がわざわざ「PLUS+ アンカー」に出向き、カキの漁師風料理を食べてもらう催しが始まった。
写真:両端が被災地から来た2人。