街の灯 「PLUS+ アンカー」の話  その10 何も知らなかった

いま「PLUS アンカー」は賑やかである。当初はまばらだった客足も、開店直後に地元紙が記事にしてくれて急速に増えた。出すのは飲み物とランチだけなのだが、1ヶ月ほどは満員御礼が続いた。

その賑わいぶりに刺激されたのか、家への愛着のためか、家主の角田さんも週に3、4回は客として顔を出し続けている。それだけでなく、庭の手入れは角田さんが自ら引き受ける日課となった。毎朝6時前後に顔を出し、1人で庭木を剪定し、石を整え、いつ客が来てもいいように準備する。

採算もトントンまでこぎ着けた。雅子さんの思い、角田さんの願い、そしてふみえさんの蒔いた種はみごとに花開いた。

だが、である。それだけなら、単なる人情話にすぎない。すてきな独り暮らしのおばあちゃんがいた。心を揺さぶられた人が、そんなお年寄りたちの力になりたいと思った。たまたま、所有主が強い思い入れを持つ古民家がいい場所にあった。みんなの思いが触れあってカフェができた。どこにでもある、とまではいうまい。しかし、探せば似たような話はいくつも見つかるに違いない。いや、人情話ということなら、「PLUS アンカー」を凌ぐ感動実話だって、全国津々浦々に目をやればいくらでも出てくるのではないか。

そうであれば、「きりゅう自慢」に取り上げるほどの話ではない。

だが、開店から間もなく、「PLUS アンカー」は人情話を越え始めたと筆者は考える。それは、東日本大震災の被災地から訪れた2人の青年がきっかけだった。

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