花を産む さかもと園芸の話 その4 土地探し

それまでも2人は時間を無駄にはしなかった。2人で土地を探して北関東を歩き回った。2人の暮らしを始めるだけならどこでも良かったろう。だが、自分の手で花を作るのは正次さんが生涯をかけた夢である。久美子さんはそんな正次さんに惹かれたのだ。花卉生産農家にとって、農園の立地は何よりも重要だ。

2人が抵抗を受けたのは結婚だけではなかった。花卉農園を始めるという正次さんの計画も、正次さんの親兄弟を含めた周囲から強い反対を受けた。何しろ、正次さんの実家は農業に見切りをつけて転業をしていたのである。兄が諦めた農業をこれから始める?

「それほど言うのだったらやってみろ。俺にできるだけの応援はする」

と言ってくれたのは正次さんのおじさんただ1人だった。その頃正次さんのお父さんが亡くなる。少しばかりの土地を相続した。その土地を売る。おじさんからお金を借りる。正次さんの手元にあった開業資金はそれだけである。ゼロから花卉農園を始めるには決して潤沢とはいえない。

だから、購入する土地の条件は、まず安いことだった。そして、せめて1ヘクタールは欲しい。地価が高ければ狭い土地しか買えず、育てる鉢の数が減って採算がおぼつかなくなる。

条件の2つめは、夏涼しいところである。育てようと計画したシクラメンは涼しいところが好きだ。アジサイも秋が早く来ると開花が早まって出荷に都合がいい。しかし、冬寒すぎると暖房費がかさんで経営を圧迫する。標高500m程度の準高冷地がいい。

3つ目は大消費地東京に近いことだ。育った花は市場に出さなければならないが、1日で往復できる距離でないとやっかいだ。加えて実家との距離があった。2人とも埼玉県東松山市にふるさとがある。久美子さんが長女ということもあり、ここからも1日圏が望ましい。

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