目の付け所 古澤整経の2

【カスタマイズ】
最新式の整経機を石川県のメーカーに発注したのは2018年だった。繊維を大量に一貫生産する大手メーカー向けに開発された機械で、かなり高価なものだ。中小企業が導入することはまずない。だが、古澤さんは迷わなかった。

「大工場向けだから最先端の機能が備わっているんですよ」

古澤さんは妻・忍さんと2人で仕事を切り盛りしている。いわゆる中小零細工場の1つである。同じ糸を大量に整経する大手工場と、多品種少量生産、つまり様々な糸を少量ずつ整経する古澤整経とでは事情が違う。いくら最先端の機械とはいえ、使いこなせるのか?

ここでも古澤さんは少し違ったところに目をつけた。

「大工場で導入機を決めるのは、多分現場で作業したことがない役職者で、現場で作業する人たちは上が決めた機械を操るだけ。『こうしたらもっと使いやすくなるのに』と思いついても、そんな意見が上に通る機会はほとんどない。だから糸で苦労したことがない整経機メーカーが考えた大量生産向けの機能しか備えていない。でも、私は自分で操作します。最先端の機能をどうすれば多品種少量生産の現場で使いやすくできるのかを徹底して考え、メーカーにカスタマイズしてもらいました」

何をカスタマイズしたのか。

整経機には糸を巻き取るタンプルという巨大な円柱があり、クリール(糸が巻かれたボビンを立てておく装置)から出た糸はこのタンプルが巻きとる。
広大な空間さえあれば一度に数千本、1万数千本の糸をタンプルが巻き取ることも出来よう。しかし、それは物理的に無理なので数百本ずつ巻き取る。一度に400本の糸を巻き取れば、1万本の経糸は25回に分けて巻くことになる。これは大手工場でも事情は同じである。だから、すでに巻き取りが終わってタンプルにできた山と、これから巻き取ってできる山で差が出ないよう、糸の最終的な出し口とタンプルの間にセンサーがついており、大工場では自動的に整経が進む。

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