織物で描く「絵画」 アライデザインシステムの1

平織り、綾織り、朱子織り。織り方の3つの手法である。アライデザインでは、平織りは2本の経糸をまたがせて緯糸を表に出す。綾織りは4本、ないし8本、朱子織は5本か8本だ。實さんはこの3手法を組み合わせて32種類のパターンを作り上げた。こうして真っ白から真っ黒まで徐々に明度が変わるグラデーションを手に入れた。

新井實さんが織り上げた「婆娑羅像」

 手応えを感じた實さんは幅60㎝まで織れる織機を駆使して婆娑羅像を織り上げた。天を衝く怒髪、見る者を射貫くようにギロリと見開いた眼、怒りを吹き出さんばかりに大きく開けた口。写真で見ていただければおわかりのように、

「これが織物か!」

といいたくなるほどみごとな仕上がりである。

「婆娑羅像」の顔の分を拡大した

自信作だったのだろう。實さんは多くの人にこの婆娑羅像を見せた。これまで織物では表現出来なかった世界が惹きつけたのか、飛びつくように仕事を依頼するデザイナーが現れた。プロ野球の球団からは

「イチローの打撃フォームを織ってくれ」

との依頼が舞い込んだ。たった一枚の、中国で織られた絵はがき大の布が、アライデザインに大きな転機をもたらした。

だが、である。まだ「絵画織」は完成していない。いま振り返れば、モノクロの織物の世界で様々な絵を描いたのは、下絵、デッサンにしか過ぎなかった。
「絵画織」が完成の域に達するには、もう一つの転機が必要だった。そして、その転機は間もなく、向こうからやって来た。

 

 

 

 

 

写真:新井伊知郎さんを中に千夏さん(左)と前田寿美恵さん

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