指先に宿る技 石原好子さんの2

経糸同士を繋ぐ。同じに見える糸も詳細に見れば1本1本が違う。改良が進んだとはいえ、いまのタイイング・マシンには完璧にはつなげない糸がまだあるのが現実だ。繋がらなかった糸をもう一度繋ぎ直す機能も機械にはない。だから機場である桐生につなぎ屋さんは必要不可欠なのだが、この技を持つ職人さんの高齢化、後継者不足で風前の灯火である。石原さんは、消えかかっている灯火を守り続ける貴重な1人なのだ。

「いまはほとんどなくなったけど、人絹はよじりやすかった。いまはね、右撚りの糸と左撚りの糸を繋いだり、太さの違う糸を繋いだり、多少は難しくなったけどね。うん、撚りが違う糸を繋ぐときは一度よじって、もう一度反対によじるの。『戻し』っていうんだけどね。そうすると繋がってくれる」

「そうそう、最近、絹糸って昔よりなんか落ちたみたいね。昔の絹の方がよじってる指先が喜んでいたよ」

「木綿の糸は、あれ、ほかの糸に比べるとザラザラしているんだわ。だからなんだろうね、時々指先が切れて血が出てしまう。経糸に血がついても、そこは織物には使わない部分だから問題はないけどさ」

そんな話を聞きながらメモをとっていたら、9800本の糸がすべて繋がって、瘤状になった繋ぎ目がみごとに一直線に並んだ。

写真:タイイング・マシン=桐生市の機屋「須裁株式会社」で。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です