指先に宿る技 石原好子さんの2

実は、経糸同士を繋ぐタイイング・マシンもある。この世界でも省力化、機械化は進んでいるのである。だが機屋さんによると、繋ごうとする糸の太さや種類が違ったり、左撚りと右撚の糸を繋ごうとしたりすると機械は頻繁にミスをする。繋いだはずが繋がっておらず、機械が動きを止めた後で点検すると、数百本、時には数千本の糸が繋がれないまま下に垂れ下がっていることもある。そのままでは新しい経糸を巻き取り用ビームに巻き取れないから、人が下に潜って1本ずつで繋ぐ羽目になる。

これまで人類は様々な労働を機械化してきた。いまは人間の脳に取って代わるコンピューターの開発に研究者はしのぎを削る。チェスや囲碁で人間を打ち負かすコンピューターが登場した。自動運転の技術の開発が進み、人に代わって車を操作するコンピューター技術として、コンピューターが人と同じように自分で学習するディープラーニング(機械学習、ともいう)が注目される時代である。機械は人間に挑戦し続ける。

確かに、計算の速さ、記憶の量、記憶の正確さ。どれをとってもコンピューターは人を追い越した。しかし、小説が書けるコンピューターがいまだに登場しないように、職人さんの技を凌駕する機械はなかなか生まれないのである。まったく同じものを正確に作り続ける機械はいくつもあるが、1つ1つ違った「味」を醸し出して人を惹きつける物を産み出す機械はない。作業中のちょっとした状況変化のすべてに機敏に対応して乗り越える機械もない。機械はまだ、「馬鹿の1つ覚え」の作業しか出来ないといってもいいすぎではない。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です