布のマジシャン トシテックスの1

俺にも出来るんじゃないか——最初に挑んだのは、「インサイドカット」「万華風通」と名付けた織物である。桐生の機屋さんが得意とする二重織りをオーガンジー(細い糸を使い、硫酸仕上げをして透明感とハリ、コシを持たせた生地)で織り、その間に糸くずや布の切れ端、特殊に編んだ糸などを挟み込んだ。「インサイドカット」は中に入れた糸や布が一定範囲内を自由に動き、「万華風通」は挟み込んだ糸の束を一点だけで止めたので糸の端は自由に動く。持ち手の動きで柄が変わり、様々な表情を見せる。

インサイドカット
万華風通

 

 

 

 

 

もちろん、二重織りを織り上げたあとで挟み込むことも出来る。現に、織っている途中の二重織りの間に、織機を止めて鳥の羽を手で挟み込んでいる作家もいた。しかし、それではコストがかさみすぎ、商品にはならないと金子さんは考えた。

「私は織機を止めずに、織り上げれば中に糸や布きれが挟まっているように出来ないか、と考えたわけです」

仕組みを思いつき、挟み込む特殊な糸も開発した。ところが、その糸を巻く装置が、どうやっても自分ではできない。

「困り果ててね。だからでしょう、市内の糸屋さんにふと話したんです。そしたら、『そんなもんだったら、俺が作ってやるわ』って」

これも桐生という繊維産地ならではのことだろう。形になったのは2006年頃である。

でも、どうやったらこんな不思議な生地が織れるのか?

「いや、これ以上話したらちょっとまずいんで」

大ヒットとまでは行かないが、コートやブルゾン、ジャケットの生地、日傘用などにいまでも引き合いがある。

これが、布のマジシャンの第1号作品だった。

写真:イタリア製の編み機を操作する金子さん

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