布のマジシャン トシテックスの2

【鎖を編み込む】
「こんなの、編めませんかね」

ヨーロッパから戻ったばかりだという東京の客が鞄から取り出したのは、幅が1㎝ほどのテープだった。良く見ると、テープの端は編んだ紐で、真ん中に金属製のチェーンが梯子状にかかっている。2007、8年のことだ。

「イタリアで買って来たんだけど、同じものが作れたら欲しいと思って」

金子さんの工場に備わっている編み機もイタリア製である。ひょっとしたらそれを知って訪ねて来たのかも知れない。

左右の紐を先に編み、それにチェーンを手作業で渡していけば出来るだろう。だが、そんなことをしたら工賃がかさんで商品にはならない。編み機でチェーンを編み込むことが出来るか。

「うーん、出来るかも知れないね。少し時間を下さい」

客が帰ると、金子さんは近くのDIY店に車を走らせた。先ほど見たのと同じような金属製のチェーンを買うためである。
戻ると編み機の前に陣取り、普通は糸をかけるところにチェーンを装着して編み機を動かした。

「なーんだ。簡単に編めるじゃないか」

やや拍子抜けだった。そこで止まっていたら、単にコピー商品が出来たというだけである。編み機から出てくるテープを見て、金子さんの中でムクムクと湧き上がるものがあった。チャレンジ精神と呼んでもいい。あるいは金子さんのどこかに生き続ける、子供っぽい遊び心だったか。

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