一徹 喜多織物工場の1

【紗織り】
「紗(しゃ)」という字は、「糸」偏に「少」と書く。経糸(たていと)、緯糸(よこいと)を1本ずつ交差させる平織りに比べて、緯糸の数が半分で済む織り方だからこの字があてられた。糸数が少ないため軽い。また生地に隙間が多いので透けて見え、通気性が高い夏用の布地として使われることが多い。しわになりにくいのも特徴である。高僧の夏場の衣服としてご覧になった方も多いはずだ。
紗織りは「もじり織り」(「からみ織り」ともいう)と呼ばれる織り方の1つである。「もじる」とは聞き慣れない言葉だが、広辞苑第三版は、「ねじる。よじる」と解説している。だが、「もじり織り」は糸や布をねじったりよじったりする織り方ではない。
左はかつて工業高校で使われていた教科書「機織2」に掲載されたもじり組織の図である。
(1)が紗織りで、隣り合った2本の経糸のうち1本がループ状になって隣の経糸の下を往復している(この経糸を「もじり糸」という)。ループにならない経糸を「地糸」といい、緯糸は「もじり糸」と「地糸」でできた隙間を通っているのがおわかりだと思う。もじり糸を伸ばせば右図のように緯糸と緯糸の間に経糸同士が交差するところができる。この交点があるために緯糸の数が半分に減って糸の間の隙間を作るから軽く、下が透けて見える生地になる。和服ではカジュアルやセミフォーマルな席でのおしゃれ着に使われることが多い。
同じもじり織りで、紗織りより格が高いとされるのが「絽織り(ろおり)」である。上の図の(2)を見て頂きたい。こちらは経糸のループでできた隙間に、3本以上の緯糸が通る。緯糸の数が増えるため透き通る度合いが抑えられる。結婚式、お茶席など改まった場での正装用とされる。
この2つの技法に平織り、綾織り、繻子織りなどを組合せ、多彩な布が産み出される。
経糸は最初から最後まで同じテンションで平行に張られているから、緯糸を通すループを作るには一工夫いる。恐らく、遠い昔は人手で1本1本ループを作り、緯糸を通していたのだろう。それを織機で自動的に織れるようにしたのは後代の発明である。いまは織機で経糸を上げ下げする綜絖(そうこう)に特殊な器具(「もじり綜絖」)を取り付け、ループを作る「もじり糸」を緩ませながら自動的にループを作り、緯糸を通す。
中国では唐末から宋代にかけてもてはやされ、日本では平安時代に流行したと伝わっている。

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