カフェラルゴ 第6回 ネガ

貴弦くんが幼かったときの綾子さんの悩みと同じである。

目の前にいたお母さんがいった。

「そんなこんなを考えすぎて鬱になっちゃったお母さんも近くにいるんですよ」

人に会いたくないから家にこもる。四六時中子供と顔を突き合わせていると、この子のためにこんな思いをする、と考え詰めてしまう。まかり間違えば、子供の虐待にも繋がりかねない。

育児は一大事業らしい。迷ったり悩んだりしたのは綾子さんだけではなかったのである。

三人寄れば文殊の知恵、という。同じ子育て中のママや、子育てのベテランになっているはずの先輩ママとの情報交換は欠かせない。
それに、人の心理とは不思議なもので、あ、私はこんなことを悩んでるんだと気がつけば悩みから這い出せる。悩みがどれほど深刻でも、それを人に話せば少し軽くなる。

「だから、同じような問題を抱えた他のお母さんと気楽に話す場所って、とても大事なんです。私は人に紹介されてここに通うようになって、そんなことに気がつきました。何をしゃべってもお互い様じゃないですか。だから、何でも話せる。店を出る時には、なんか気分がすっきりしてるんです。よし、もう一丁子育てをやってやるか、って」

このお母さんは、友人とランチをする時はカフェラルゴが第一候補になるという。

「ここはみんな子連れですから、周りを気にする必要がないんです」

——普通の飲食店では、そんなに周りが気になりますか?

「子連れお断りって店もありますし、そうではなくても子供って動き回るでしょ。だからおちおち食事しているゆとりがない。子供が泣き出すと露骨にいやな顔をするお客さんもいますしね。ここならお互い様。子供はいつも視野の中にいるし、ホントにリラックスできます」

そうか、カフェラルゴというユニークな店が繁盛するのは、私たちの未来を担う子供たちの泣き声や子供らしいいたずらに神経を尖らせる人が増えたいまの世の中に原因があったのか。現代日本のネガとしてのカフェラルゴ。

しかし、そのネガで救われているパパ・ママがたくさんいる。

 

 

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