「星」にかける 高橋デザインルームの2

【タペストリー】
反物の織り組織は洋服地など広幅に比べれば単純である。山形からの注文は繰り返しがない複雑な図柄だったため膨大な作業になったが、見方によってはコツコツ作業を続ければいつかは完成する仕事ともいえた。

それに比べて広幅の織物は複雑だ。綜絖(そうこう)で上下に分けられた経糸(たていと)の1つの隙間に何本もの緯糸(よこいと)が通る。どの緯糸を表面に出すか。その下にある糸をどう並べて止める糸をどう回すか。平織り、綾織り、繻子織の3源組織だけではとても間に合わない。図柄にあった織り組織をそのたびに考えなくてはならない。

左の写真は1m×1mほどのタペストリーである。意匠の注文を受けたのは1992年だった。ご覧のように柄が細かいうえに様々な色が使われ、しかも繰り返しが一切ない。高橋さんが引き受けた仕事の中でも極めて複雑なものの1つである。

すでにコンピューターがあった。元の図案をスキャナで読み込み、まず色を仕分けする。コンピューターがはじき出した256色を36色にまとめた。
原画の上に罫線を入れる。数十万にも上る小さなマス目が出来る。使う緯糸は5色。表に出す緯糸を決め、裏に回す緯糸の並べ方、緯糸を抑えるために経糸をどう回すかを考えると、36色を表すには180の組織が必要になる。

たくさんの組織を使うときに気を使うのは、隣り合った組織同士がかち合わないようにすることだ。相性の悪い組織があり、それが隣り合うとお互いに侵食し合って色と色との境界線が乱れてしまう。
それを頭に入れながら、コンピューターのディスプレイ上で、色と色の境界線になるマス目を、出来るだけジャギーが目立たないように塗り、織り組織を当てはめていく。緯糸の出し方、経糸の回し方次第で織り上がりの柄は大きく表情を変える、美しく、深みのある柄にするにはどうすればいいか。自分で選んだ色、当てはめた織り組織で織られた柄がどんな色、図柄を産み出すのか。手に取るように高橋さんの頭に浮かぶのは積み重ねた経験、研究のたまものである。

「だけどねえ、これ、罫紙を使う時代だったらとても出来ませんでした。コンピューターで仕事は随分楽になりました」

それでも、出来上がるまでに1年はかかった。

「ひょっとしたら私、根気だけは他の人より少したくさん持っているのかも?」

意匠屋さんとは、実に根気の要る仕事なのである。

写真:このロータスのタペストリーも、高橋さんが意匠紙を作った。

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