「星」にかける 高橋デザインルームの1

ここからの作業は、コンピューターでのデジタル画像処理を思い浮かべていただければ解りやすい。

左の写真は、冒頭に掲載した高橋デザインルームの高橋宏さんの写真のうち、眼鏡の一部を拡大したものである。色と色の境目に、階段状のギザギザ(ジャギー)が現れているのがおわかりだと思う。デジタル画像はドットと呼ばれる四角なパーツの集まりで、1つのドットは1色しか表せないたいめ、曲線や斜めの線ではどうしてもこのようになる。こうしたドットを連ねることでたくさんの色調を表現する。
織物の絵柄も同じ原理を使う。罫紙の1マスがデジタル画像の1ドットに当たる。
色同士の境界線上にあるマス目に色をつける作業を「はつり」という。各マス目の色を適切に決めないと、斜めの線、曲線にジャギーが目立ってしまうのもデジタル画像と同じだ。
だが、ここまでの作業なら、デジタル画像処理ができる人ならほとんどの人が上手くこなせるだろう。実はここからが意匠屋さんの腕の見せ所である。
織物の組織は3つの基本パターンがあることは「桐生絹織の1」で書いた。生地の表に出る糸の比率が増えるにつれて、その糸の色が濃く見えることを利用し、基本パターンの組合せで多くの色を出す。
だが、パターンが3つだけでは表現できる色に限界があることはたやすく分かる。意匠屋さんはこの3つのパターンを使いこなすのはもちろんだが、表現したい色調を産み出すために独自のパターン、織り組織を作り出す。
綜絖(そうこう)で上下に分けられた経糸(たていと)の隙間の1つに4色の緯糸を通すとしよう。絵柄に必要な色数を30とすると、表に出す糸、裏に隠れる糸の重ね方、経糸での抑え方などを工夫しなければならず、必要な折組織は120にも上る。どのような組織を作り、組織同士をどう組み合わせるかで生地に描かれる図柄の陰影が決まり、奥行きに深浅が生まれる。意匠屋さんは織り上がりの図柄を思い浮かべ、より美しい「絵」を描こうと織り組織を並べていく。
いまは意匠の仕事にもコンピューターが入り、図案をスキャナーで読み取ればマウスを操作するだけで読み取った図案に罫線が引かれ、織り組織の割り当てもマウスでできるようになった。だが、コンピューターは織り組織までは自動生成してくれない。3つの基本パターン以外は、意匠屋さんが組織を考えだし、コンピューターに記憶させなければならない。作業は各段に楽になったとはいえ、腕の見せ所はやはり「織り組織の作り方、組合せ方」で、意匠紙を使っていた時代と全く同じである。
かつては意匠屋さんが作りだした柄データ、織り組織のデータは紋切所に持ち込まれ、ピアノマシンと呼ばれる紋切機で職人さんが1つ1つのマス目を確認しながら紋紙に穴を空けた。いまは自動紋切機にデータを入れれば自動的に紋紙になる。またコンピューター制御のジャカード織機用なら紋紙を切る必要はなく、機屋さんにそのままデータを渡せばよい。

写真:高橋宏さん

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