灯台下暗し 鍋谷建具点の2

【ダメ出し】
引き受けはしたものの、鍋谷さんは刺繍枠など作ったことはない。見たところ、真円の輪っかを2つ組み合わせるのだが、さて、どうやって真円を出す?

考えた末に行き着いたのが、組子の技法である。組子では柔らかな曲線を描く桟も使う。真っ直ぐな桟を力任せに曲げて組子にすれば、やがて真っ直ぐに戻ろうとする力で全体が狂ってしまう。だから、曲げる桟は湯につけて柔らかくしてカーブを出し、まだ水気があるうちに組み付ける。
この技を使うしかない。

鍋谷さんは素材選びから始めた。選んだのはアメリカヒバ、日本の檜(ひのき)、それにインドネシア産のニャトウ(ラワンのように柔らかい、薄い褐色の木)である。この3つの素材で作り、最後は大澤さんに選んでもらう。

刺繍枠は薄い板を数枚貼り合わせて作られている。鍋谷さんはまず、厚さ2㎜を4枚貼り合わせようと決めた。細い板を作り、切りそろえると湯につけて曲げ、曲がった板を木工ボンドで貼り合わせる。

湯につけて曲げた板は、放っておけばまた元の真っ直ぐな形に戻る。組子の場合は曲がったまま組み立て、その形で乾かすので曲線がそのまま残る。しかし、刺繍枠は濡れて曲がったままの板を貼り合わせなければならない。
しかし、ご存知のように、ボンドは水に弱い。ボンドをつけて貼り合わせたつもりでも、時間がたつと次々にはがれ始めた。

「これは大変な仕事を引き受けたな」

しかし、今のところ他の作り方は思いつかない。なんとか使えそうなものを選び、大澤さんのギャラリーに持参するまでに半年ほどもかった。

大澤さんが選び取ったのはニャトウだった。ヒバ、檜は木の匂いが強く、生地に移る懸念があるという。それに、ニャトウの柔らかさも生地を固定するのに都合が良かった。会社に戻った鍋谷さんは、ニャトウ製の刺繍枠の量産に入った。

「でもねえ、接着の問題は未解決だったし、ニャトウは柔らかいから途中でねじれるのが多いんです」

70本作って、使いものになるのは20本ほど。職人泣かせの素材である。
ところが。

「これ、駄目よ。フワフワと腰がなくてとても使えない」

大澤さんから連絡が入ったのは数日後である。鍋谷さんはギャラリーに飛んでいった。

「わかりました。では大澤さん、桜材が使えない以上、日本の檜にしませんか? 檜は世界に誇れる最高の針葉樹です。気にしていらっしゃる臭いも削って1週間もすれば消えます。私は、これしかないと思います」

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