灯台下暗し 鍋谷建具店の2

【出会い】
キューピッド役をしてくれたのは、知り合いの建設業者だった。ギャラリーを尋ねてきた彼女と雑談しながら、刺繍枠を作ってくれる人がいなくて、このままでは刺繍を続けていけなくなるかも知れないと、つい弱音を漏らした。
すると、

「桐生市内で、うちの下職をやってる腕のいい建具屋がいるんですよ。彼ならできるかも知れない。ご紹介しましょうか?」

といってくれたのである。

といわれても半信半疑だった。群馬県内は評判を頼りに余すところなく足を伸ばした。遠くは秋田まで電話で問い合わせた。それでも1人もいなかったのに、足元の桐生に作ってくれる職人さんがいる? 灯台下暗し、って本当にあるのか?

が、ダメ元である。

「だったら、お願いしてみようかしら」

2020年始めのことだった。

数日後、鍋谷建具店の鍋谷由紀一さんが大澤さんのギャラリーを訪ねて来た。

「こちらをお尋ねしろと言われまして」

鍋谷さん作のドア。念入りに作られた組子が美しい。

聞けば、一品物のドアや障子、襖、衝立などを作る職人さんである。2015年には厚生労働省所管の中央職業能力開発協会が主催する技能グランプリで、組子(釘を使わず、細い木の桟を幾何学的な紋様に組み上げる技)を使った衝立でみごとグランプリに輝いたという。

大澤さんは早速作って欲しい刺繍枠の説明を始めた。
刺繍枠は伝統的に桜材でできていた。だから、桜を使って欲しい。

「それは駄目です。いま素性のいい桜材は手に入りません」

そうか、枠作りの職人がいなくなったのは、ひょっとしたら材料が手に入らなくなったことも原因の1つかも知れない。しかし、だから刺繍枠ができないのでは困る。

「では、材料は任せます。ただ、ある程度の弾性がないと生地を上手く固定できないし、それに重いと作業性が落ちます。そこに配慮して作ってみて下さい」

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