FREE RIDE ライダーは桐生を目指す その19 FREEDOM

ここまで書き継いで、筆者は1本の映画を思い出した。「世界最速のインディアン」。2005年に公開されたニュージーランド・アメリカの合作映画だ。日本では2007年に初上映された。
ニュージーランドのバイクライダーで1000cc以下のオートバイの地上最速記録保持者、故バート・マンローさんの実話をもとにした映画である。主役のバートさんをアンソニー・ホプキンスが演じ、夢に邁進する初老の男を観客の目に焼き付けた。監督はニュージーランドのロジャー・ドナルドソン。

バートさんの憧れの地は、アメリカユタ州ボンネビルのソルトフラッツである。塩湖のあとにできた平原で、毎年8月、地上最速を競う「スピードウイーク」が開かれる。改造に改造を重ねた1920年製のインディアン・スカウトをここで疾走させ、風を超えたい。

60歳をすでに超したバートさんは年金暮らしである。ボンネビル遠征の費用を2000ドルと見積もって貯金はしているが、まだ1275ドルしかない。あと何年かかるか。
そんな折も折、狭心症が見つかる。医者はバイクを諦めろと言った。バートさんは

「今年しかない!」

と心を決めた。家屋敷を担保にして金を借り、ボンネビルに旅立つ。

夢を持つ男は7歳児の心を持つ。片田舎からやって来た7歳児の目に映るアメリカの姿はこの映画の楽しみどころでもあるが、圧巻は世界記録への挑戦だ。

風の抵抗をギリギリまで減らすため、改造インディアン・スカウトには足を排気管に押しつける不自由な姿勢で乗らねばならない。長時間走れば排気管が焼け、足が焼ける。では、とアスベストの布を足に巻くが、それでは車体に入らない。

「ままよ!」

とアスベストを放り出したバートさんは、走る。

1マイル地点:255.317km/h
2マイル地点:270.242km/h
3マイル地点:275.794km/h
4マイル地点:277.587km/h
5マイル地点:295.626km/h

足の皮膚が焦げ始めた。

1件のコメント

  1. 19回の連載お疲れ様です!今回初めてコメントしました?とても素晴らしい文章力はさすがです!
    二渡さんの人間性に惚れ込んで、そんな人の作る服に惚れ込み、そんな服を着てバイクに乗り続けることができる喜び!
    19回では語りきれないほどの経験談もお持ちだと思うので、機械があれば続編をお願いいたします!・・・お疲れ様でした!

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