趣味? からくり人形師佐藤貞巳さん   第4回 白瀧姫は布を織れるか

白瀧姫は完成した。次は織機である。

織都桐生には人が動かしたひと昔前の織機がたくさん残っている。佐藤さんは市内を歩き回り、出来るだけ古い織機を探した。古い方が仕組みが簡単で、作りやすいからだ。

目当ての織機を見つけた佐藤さんは、その仕組みを頭にたたき込んだ。図面は描かないのが佐藤流なのだ。図面を頭の中にしまい込んだ佐藤さんは、白瀧姫の人形とのバランスを考えて、実物の5分の1ほどの大きさにすると決めた。経糸の本数は60本である。

角材で骨組みを組み立てた。廃業した機屋さんに残されていた古い織機から綜絖を取り外して持ち帰った。綜絖に使う、経糸を通す穴が空いた金属の棒を60本取り出すためだ。これを短く切って使う。筬は古い織機から本物を取り外して改造した。枠を取り外して竹を削った薄片を1本おきに取り除き、高さも5分の1に切り詰めた。竹の薄片を取り除いたのは、本物のままでは目が小さすぎて経糸の本数が増え、準備が面倒になるためだ。こうして織機のミニチュア版が完成した。

本物にあってミニチュア版にないのは杼だけである。

この織機の前に完成した白瀧姫の人形を座らせ、左手を筬に固定すれば完成である。実演するときは佐藤さんが操り糸を操作し、綜絖を動かして上糸と下糸を入れ替え、筬をトントンと手前に引けばいかにも白瀧姫が機織りをしているように見える。杼は飛ばず、布が織られることもないが、それはからくり人形だから仕方ないだろう。

(製作途上)

7月から製作に取りかかった。もう10月である。えびす講は11月19,20日。あとは彩色して見栄えをよくすればいい。

そのはずだった。

完成したはずなのに、佐藤さんには何となくモヤモヤした割り切れないものが残った。

「確かに、白瀧姫が機を織っているようには見える。でも緯糸はないし、実は布は織っていない。そんな中途半端なからくり人形が面白いか?」

緯糸を通すには杼を飛ばさねばならない。

杼は舟のような形をして中に緯糸が入っている。この杼が綜絖で上下に分けられた経糸の間を、緯糸を吐き出しながら左右に動く。

昔は織機の両側に人が立ち、杼を交互に手で投げ入れて緯糸を通していた。しかし、これだと1台の織機で機を織るのに3人がかりとなる。

18世紀にイギリスで「飛び杼」が発明された。織機の両側に発射機を置き、織機から下がった紐を引くと杼を打ち出す。反対側の発射機がこれを受け取り、これも紐の操作で杼を打ち返す仕組みである。初期の飛び杼でも生産性が3倍に上がったといわれる。

「何とかして杼を飛ばし、布を織らせてやろう!」

左右から紐で引っ張るわけにはいかない。一度動かせば引っ張るための紐が緯糸になって布に織り込まれてしまい、そこから動かせなくなってしまう。だから、金属の棒やピアノ線も使えない。杼は何かに繋がれていては役にたたないのだ。

「小さな発射機を作るか?」

小さなハンマーで杼を叩く発射機を試作してみた。ところが、飛び出した杼は途中で経糸に引っかかって動かなくなる。杼の形を変えて何度やってもうまくいかなかった。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です