街の灯 「PLUS+ アンカー」の話  その4 別れ

雅子さんの口から思わずきつい言葉が出た。聞くと、いつものヘルパーさんは昨日で仕事を変わってしまい、今日からは新しいヘルパーさんになったという。その新しいヘルパーさんが今朝来て待っていたがふみえさんは降りてこない。上がっていって部屋のインタホンを鳴らしても応答がない。どこかに出かけたのかな、といぶかりはしたものの、仕方なくほかを回って事務所に戻り、民生委員と相談してもう一度来てみた。携帯電話の番号の引き継ぎは受けていないから、こちらに連絡することは思いつきもしなかった、という。

雅子さんはそれだけ聞くと、事務所に備えている合い鍵を持ってふみえさんの部屋に駆けつけた。焦る気持ちを抑えながらキーを差し込んでドアを開けると、ふみえさんが台所で倒れていた。口元に顔を寄せる。まだ息はある。すぐに救急車を呼んで病院まで付き添った。入院の手続きも雅子さんが済ませた。

ふみえさんは間もなく亡くなった。担当した医者に聞くと、朝食を支度しようと米をとぐのに冷たい水に手を入れたときに、冷たさで心臓麻痺を起こしたのだろうと説明を受けた。
であれば、朝、ヘルパーさんが私に電話をしてくれていれば治療が間に合い、ふみえさんは死なずに済んだかもしれない。今日も元気で、「PLUS アンカー」に顔を見せてくれたかもしれない。
どうしてこんな日にヘルパーさんが変わらなければならないのか。私の携帯番号を引き継いでくれなかったのはなぜなのか。うっかり、という一言で済ませるには、結果が重すぎるではないか……。

雅子さんの気持ちは千々に乱れたが、できることはもう何もなかった。

写真:ふみえさんの遺品となった虫眼鏡と皿を前にした川口雅子さん

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