花を産む さかもと園芸の話 その18 変化

仕事が大切なのはいうまでもない。だが、それと同じように、家族のプライベートな暮らしも大切にしなければならないのではないか?
正次さんと久美子さんが「仕事最優先」という哲学を持っているとすれば、チャイさん、佳子さんには「仕事も暮らしも」という信条がある。世代は移り変わるのである。

「だから、僕はビニールハウスに温度と湿度のセンサーを新しく入れたよ」

センサーはインターネットで買った。自分でソフトを組み、8箇所にセットした。ビニールハウスにWiFiを入れ、センサーが拾った温度、湿度のデータはパソコンやスマホで見ることができる。チャイさんが現場に張り付く必要はなくなる。

「急に天候が変わって何かが必要になってもすぐに分かるから、現場にいる人に指示を出せる。出かけるときも安心ね」

温度やタイマーの設定を簡便化したのもチャイさんだ。正次さんのシステムは設定項目が詳細を究め、

「使いこなせるのはお義父さんだけだったね」

だから、従業員を含めて誰でで設定できるように変えたのだ。

最近、ビニールハウスにWebカメラを40台設置した。これもネットで買った。従業員たちは

「チャイさんは24時間、私たちを監視するのよ」

と冗談めかして話すが、目的は従業員の監視ではない。花を見張ることだ。それぞれのカメラは角度やズーミングをスマホで操作できるから、広い範囲を見ることもできるし、気になる鉢の様子をうかがうこともできる。

そろそろ導入したいのが水管理の完全自動化だ。何時にどの程度の水をやるかを今はタイマーで管理しているが、前にも書いたように気温や湿度、風の強さなどで水をやる最適のタイミングは日々変わる。変わった部分は人が調整するしかない。

「天気予報がずいぶん正確になった。だから1週間分の詳しい天気予報を使って、向こう1週間の水やりタイミングをセットできるようになれば、今よりずっと楽になるよ」

そんなチャイさんを、妻の佳子さんはこう見る。

「チャイは、楽をするために頑張る、という人です。Work Dayは人一倍働く。でも休日は仕事を忘れて楽しむんです」

社長の仕事をもっと楽にする。そのために企業としての体を整えたい。総ての仕事が社長である自分から出て行くのではなく、仕事と権限を分散して、それぞれの部分が自律的に動くようにする。社長はそれを束ねる。だから、社長がいない期間があっても会社は動いていく。それには

「少なくとも、正社員が2人欲しいね」

最先端の技術や経営理論を駆使して仕事を効率化するのが経営の近代化であり、合理化なのだろう。いまさかもと園芸の正社員は1人。チャイさんは一歩一歩、思い描く事業体に至る道を歩き続けている。

写真:チャイさんがビニールハウスに取り付けたWebカメラ

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