デザイナーの作り方 片倉洋一さん 第8回 スフィア プラス

「珠」の連なりができた。だが、まだ長さ20㎝ほどのプロトタイプに過ぎない。これをもとに製品に仕上げなければならない。インテリアライフスタイル展は目前なのだ。

突貫作業が始まった。「珠」はできたが、まだよくよく見れば算盤玉みたいである。これをブラッシュアップしなければならない。それに、生産が安定しない。少なめに見積もっても半分は不良品だ。糸が切れて毛羽が立ったり、ひしゃげた「珠」が登場したり。2人は改良作業を急いだ。

「とうとう算盤玉のようになるのは、完全には直せませんでした。でも、直径8㎜程度の小さな『珠』だったので、それほど目立たない。まあこれでも仕方がないかと出展に踏み切りました」

それが「スフィア(球)」である。恐らく世界で初めて、刺繍で、糸だけで「珠」を創り出した誇りを込めて命名した。

さて、刺繍で「珠」をつくる技術に支えられて、デザイナーの片倉さんはどんなアクセサリーを作ったのか。

刺繍で作るアクセサリーには出来て、ほかのアクセサリーでは絶対にまねが出来ないものは何か? と片倉さんは考えた。それは「色」である。真珠には真珠の色しかない。金、銀、宝石も、自分が持つ色からは逃れられない。
しかし「糸」は、自由に染めることが出来る。色を楽しむ。そんなカジュアルな楽しみ方ら出来るのは刺繍で出来たアクセサリーだけだ。

だから、色にこだわった。30色ほどで試作をし、採用したのは6つの色である。ライトブルー、グリーン、パープル。この3つの色では、「珠」と「珠」の繋ぎ部分にシルバーを配した。ピンク、ブラウン、ブラック、この3色の繋ぎ部分はゴールドに彩った。

「うまく行ったら色数を増やそう」

と考えての試行だった。そして色数は翌年9色に増え、いまでは30色が楽しめる。

次は全体の作り方である。同じ大きさの「珠」を並べるやり方もある。だが、片倉さんは「珠」の大きさを変えた。グラデーションのように「珠」が大きなものから徐々に小さくなり、一番小さくなる珠から徐々に大きくなって元の大きさに戻る。グラデーションから離れて、大小の「珠」をリズミカルに並べたものもある。

「色を着替えることができるアクセサリーですから、リズム感、軽快感、ポップさ、カジュアルさ、そんなイメージのネックレスにしたかったのです」

出展したのは「スフィアプラス・シリーズ」3種と、つけ襟タイプの「スフィアカラー」1種だった。
プラスシリーズでは、独特の工夫を加えた。勝手にアレンジできるようにしたのである。普通は端と端を繋いでこのように使う。

しかし、留め具はネックレスのどの部分にも止まるようになっているので、こんな使い方も出来る。

さらに、「スフィア プラス同士をつなぎ合わせれば、こんなネックレスになる。

デザイナーであり、クリエーターであり、プランナーでもある片倉さんは、ネックレスから「長さ」という制約を取り除いたのである。
そのためか、「スフィア プラス」は、いまでも「000」のベストセラーだ。

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