180台の特殊ミシン シャオレの2

【職人? 私はそんなんじゃないよ】
初めて訪れたとき、取材の趣旨を説明するのは記者の義務である。貴重な時間を割いてお話を聞かせていただくには欠かせないことだ。

「桐生は繊維加工の優れた技が集積している、世界でも希有な街だといわれます。それなのに、ではどんな技があるのか、どんな職人さんが一つ一つの技を担っているのかが驚くほど知られていない。桐生が誇るべき職人技をもっと広く伝えたいと思いまして」

取材先によって様々な反応が戻ってくる。

「職人技? いや、私はそんなたいしたことはしてませんよ」

が最も多い。次によく聞くのはこんな言葉である。

「そんなところで取り上げていただけるような技はありません」

突然の来訪者への謙遜もあるだろう。同時に、日々の仕事をきちんとこなしながら、

「もっとうまいやり方はないかなあ」

と工夫に工夫を重ねるのが当たり前の毎日だから、優れた技を駆使しているという自覚が生まれにくいのかも知れない。

そんな反応に慣れっこになっていた私には、櫻井さんの言葉は新鮮だった。

「特殊刺繍の職人技? 俺にはないよ、そんなもの。だって、それ用のミシンがあれば誰にだって出来ちゃうし、そもそも俺はミシンに30分も向かっていると眠くなって休憩しちゃうんだから」

そして言葉を重ねた。

楽しそうにブランケットを縫う裕見子さん

「ここに研修に来る学生さんもいて最初は俺たちが縫ったサンプルを見てビビってるけど、『簡単だからやってみなよ』と勧めると、ミシンに向かって縫い始め、『あ、私にも出来るんだ』って喜んじゃうのよね」

私も180台のミシンの1台の前に座らされた。

「このレバーを足で踏むとミシンが動き出す。このレバーを右手で動かすと、ほら縫い目があちこちに曲がって模様が出来るでしょ」

確かに縫えた。仕上がりは、贔屓目にも立派とは言えなかったが。

「じゃあ、ほかのところで出来ない特殊刺繍が櫻井さんでは何で出来るんですか?」

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