街の灯 「PLUS+ アンカー」の話 その17 まちの結節点に

貴志さんが、「PLUS アンカー」には自分の計画には収まりきれない大きな可能性があることに気がついたきっかけも、雅子さんと同じだった。不動産会社「アンカー」の一部門として掌の上に乗せているつもりだったカフェがいつの間にか自由に跳び跳ね始めたのである。

「知らないうちに、ここが町の人たちの舞台になっていたんですよ」

「その12」で取り上げた市の若手職員が始めた朝の勉強会「Kiryu Asa Café plus+」も「ざっくばらんな飲み会」も、貴志さんたちアンカー勢が企画したものではない。普通の人たちに最先端の科学を知ってもらおうと群馬大学理工学部の先生たちが開いていた「サイエンスカフェ」の会場は市内を転々としていたが、いつの間にか「PLUS アンカー」に定着した。
そして、それぞれの催しが、それぞれ全く違った市民、時には市外の人を「PLUS アンカー」に呼び寄せる。呼び寄せられた人たちの中から

「こんなことに使わせてもらえませんか?」

という声がかかり始める。

「私、不動産業を起業して30年以上になっていろんなことを知っているつもりでしたが、私が知らないこと、知らない人がこんなにたくさんいて、こんなに多彩な活動があったのか、と驚きました」

その驚きは間もなく確信に変わった。

「桐生は奥深い。底力がある。桐生は必ず再生できる。『PLUS アンカー』はその発進基地になるはずだ」

織田信長は居城を設けた美濃国・岐阜で楽市・楽座を始めた。商工業への規制を緩め、町人が自由に経済活動を出来る環境を整えて城下町の繁栄を築いた。
殿様気質を自覚する貴志さんは、「PLUS アンカー」を根城にした桐生のまちづくりを探り始めた。狙いは信長と同じである。桐生の経済活動を活発にするのだ。ただ、信長は商工業者の活力を引き出すことを考えた。だが貴志さんは市民の活力を引き出す必要はない。すでに市内にはエネルギーがある。殿様は黒子になって、まちのエネルギーが自然に溢れ出す道筋作りに一所懸命取り組み続ければいい。

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