街の灯 「PLUS+ アンカー」の話  その8 船出

「ホントに、明日にも工事契約をしようというときになって、自宅ビルの1階でカフェを開くことに、突然違和感を感じたんですよ。何となく無理があるような気がしたんです」

設計事務所がまとめてきた設計図ではとてもオシャレなカフェになるはずだった。だが、オシャレになればなるほど、お年寄りがそこで雑談に花を咲かせているイメージが薄らいでいたのだった。オシャレなカフェにお年寄りが集うイメージがどうしても湧いてこないのだ。何かが、違う。

「そんなことを考えていたら、活用策が行き詰まっていた角田さんのお宅が浮かんだんです。あ、私のやりたいカフェにはあの家がピッタリなんじゃないか、って」

まず、夫の貴志さんに相談した。

「それ、いいね。うん、私もいまの場所には何となく違和感を感じていたんだよ。なるほど、角田さんの古民家をカフェにするのは面白い。ママ、それ、いいと思うよ」

計画が最終段階になりながら、2人して、

「このまま計画を進めてもいいのだろうか?」

と感じていたのである。そして、その打開策でも2人の考えが一致したのだ。2人は改めて、それまでとは違った目で角田さんのお宅を見せてもらった。2013年暮れか14年はじめのことだ。
50年以上も前に建てられた古い家である。間取りはいまの住宅のように各部屋の採光を考えたものではない。南側に並ぶ応接間、客間、書斎、玄関には日が差すが、各部屋を繋ぐ廊下、その北側にある部屋には日が届かず、昼間でも薄暗い。
だが、応接間の南側にある縁側が広々としていた。なぜか、それが大変に魅力的だった。

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