花を産む さかもと園芸の話 その6 アジサイ

アジサイは日本原産の花である。ガクアジサイと呼ばれる。主に海岸沿いに自生し、「万葉集」にも詠み込まれている。

幕末、長崎の出島に滞在したドイツ人医師がいた。鳴滝塾を開き、西洋医学を日本に伝えたフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトである。数多くの日本人蘭方医を育てて日本の医療技術近代化に大きな貢献をした彼は、植物学にも深い関心を持つ博物学者でもあった。日本地図を持ち出そうとして国外追放処分を受け、1930年にオランダに去った際、アジサイ属の花14種を持って行った。これが西洋で人気を得て品種改良が盛んになり、日本原産のアジサイと区別するためハイドランジア(西洋アジサイ)と呼ばれるようになった。

事業にやっとめどが付き、やりたかった育種(交配などで新しい種を創ること)に取りかかろうとした正次さんの目を惹いたのがアジサイだった。さまざまに品種改良されたアジサイが輸入されているが、その原産国は日本。しかも、日本では品種改良するところがない。おそらく、それが正次さんの興味を惹きつけたのだろう。幸い、アジサイはすでに手元にある。日本初のアジサイ交配をやってみよう。

私たちがアジサイの花だと思っているところは、実は花ではない。花びらように見えるのは装飾花(花弁の根元で花を支えているガクが変形したもの)なのだ。この装飾花をかき分けて中を覗くと、米粒大のものが固まってある。これがアジサイの花(真花)である。

ご存知のように、植物を交配するには、花の中のおしべから花粉を取り、めしべに着けてやらなくてはならない。それは常識だろうが、アジサイの花は米粒ほどの大きさしかないのだ。おしべもめしべもこの中に入っている。顕微鏡でも持ち出したくなるほどの小ささである。

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