糸を創る 泉織物の2

カチンと来た。精魂込めて織ったこの生地の価値が分からないで問屋ができるのか! と口からでかかったが、グッと抑えた。

「分かった。俺んとこに『売って下さい』と頭を下げてくるような白生地を織ってみせる。待ってろ!」

心の内でつぶやいて引き下がった。

絹糸の勉強を始めたのはそれからである。糸商から日本中の絹糸の見本を取り寄せた。和装に使われる糸、洋装に使われる糸、高級壁紙に使われる糸。様々名メーカーが様々な絹糸を出していた。繭から糸を取るにも様々な手法があり、それによって絹糸はまったく違った表情を見せることを知ったのもこの勉強のおかげである。

——しかし、それを組み合わせて新しい糸を創ろうという発想はどこから出たのでしょう?

そう問いかけると、泉さんはしばらく考え込んだ。

「うーん、そんなこと、考えたこともなかったですねえ。自然にそうしていたので……。そういえば私、大学は工学部でアルミ合金の研究をしていました。アルミの地金にレアメタルを入れて新しい、有用な合金を作ろうという分野で、まあ、結果的には人様のお役に立つような結果は何も出せませんでしたが、違ったものを組み合わせる、という発想はあれが原点なのかなあ」

これまでに『自分の糸』の素材として使ってみた絹糸は数百種類に上る。

「私、へそ曲がりなんですかねえ。どうも、この業界にいる人が見向きもしないような糸に惹かれるところがあるんです。際だった特徴があるが使いにくいので機屋さんは絶対に使わない糸。例えば、壁紙用の糸って魅力的ですし、洋装用の糸を使う和服地機屋ってのもそれほどないのでは? そんな糸に出会うと『俺が手名付けてやるからな』ってわくわくしてくるんです」

これまでに生糸には見られなかった光沢、色目、染料の乗り、手触り、肌触り。泉さんは世界のどこにもない絹糸を駆使して、自分が理想とする和服を創り出そうと日々取り組んでいるる。

写真:泉織物は幾種類もの絹糸を在庫している。

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