糊付け 星野サイジングの2

【事業継承】
星野治郎さんが、桐生の隣町、新田郡薮塚町(現太田市薮塚町)に土地を求め、新しい工場を建てたのは1980年前後のことだ。

「息子に食っていける設備をしてやらなくちゃと思ってね」

いまはこの薮塚工場が主軸になっている。

新しく導入したのは、糊付けと整経(経糸=たていと=を揃える工程)が同時にできるスラッシャー・サイジング機である。数百本のボビン(糸巻き)から出した糸を1つのドラムで巻き取るのが整経で、スラッシャー・サイジング機を使えば、糸巻きから出た糸が途中で糊付けされ、糊を乾かしてドラムに巻き取ることになる。整経も一緒にできれば、それだけ工程数が減り、機屋さんはより安く経糸が手に入る一方、こちらの工賃も上げることができるはずだ。

新しい事業を任された長男の浩芳さんは、高校を出ると父・治郎さんと同じように桐生市内の機屋で数年修行をした。加工された糸は最後に機屋さんが布に織る。サイジングの善し悪し、整経の善し悪しは結局、織りやすい糸に仕上がっているかどうかで決まる。サイジングや整経がちゃんとできていないと、経糸が切れたり、織り傷ができたりする。織機のどこかに糸が引っかかり、織機が止まることもある。織る現場を体験しなければ、よいサイジング、整経はできない。
こうして修行を終えた浩芳さんはスラッシャー・サイジング機に取り組み始めた。

糸巻きから出た糸はまず糊が付着したローラーを通り、続いて熱風が吹き出す風洞と自動アイロンで乾燥され、最後に大きなロールで巻き取る。
「その1」にも書いたが、どのように配合した糊を使うかは、糸の種類、太さ、より数などで変えなければならない。糊の調合の具合は父・治郎さんのノートを元に手を取るようにして教えを受けた。だが、スラッシャー・サイジング機では従来通りの調合では微妙に仕上がりが違った。新しい機械に合う調合を確立しなければならない。それに、次々と新しい糸が登場する。輸入糸も増え、メーカーによって使われている油分も違う。
何度もテストを繰り返した。

「最後に頼るのは感覚ですね。何となく、ノートのデータ通りではうまくないんじゃないか、この糸だったらあの手が使えるんじゃないかと感じたら、自分の感覚に従います」

と浩芳さん。

調整するのは糊だけではない。ローラーの回転数、糸にかけるテンションの強さ、ロールに巻き取る速さ、糸を巻き取るピッチ(糸と糸の間隔)。これも最後は感頼りである。

それでも、自分の感を100%信じはしない。必ず100mほどやってみて仕上がりを確認する。糊の付き方は均一で充分か、固すぎないか、ロールは綺麗に巻き取っているか。

「それから本作業に入るのですが、数年に1回はロールに巻き取った糸が乱れてしまって一度ほかのロールに巻き直すことがあります。作業中に機械のどこかが不具合を起こすんですね」

手間がかかるが、織りやすい糸にするには避けられない作業だ。

写真:スラッシャー・サイジング機の前に立つ星野浩芳さん

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