織物で描く「絵画」 アライデザインシステムの3

【本当の職人は】
それなのに、経営を引き継いだ新井伊知郎さんは

「オヤジが職人ねえ、うーん。絵画織が認められて日本伝統工芸士会の副会長にはなりましたけど、あれはオヤジの道楽じゃないかな。本当の職人はオヤジを支えた彼女たちだと思うんだけど」

と言い放った。彼女たち、とは、伊知郎さんの妻・千夏さんと、一緒に働く前田寿美恵さんである。2人は絵画織のもとになる画像データを、織機を制御するコンピューター用のデータに落とし込む。

「私も伝統工芸士ですが、私にしてもオヤジにしても、ここはこうしたい。ここの色はこうだ、というだけ。言われたような織り上がりになるよう、あれこれ工夫しながらプログラミングしてくれるのはこの2人なんですよ。2人がいなかったら、絵画織もあり得ないんです」

コンピューターで作業する千夏さん

そこで、お二人の仕事をつぶさに見せていただいた。

千夏さんの話によると、初期の頃は画像をスキャナで読み取って下絵にしていた。しかし、スキャンした画像は解像度が低く、拡大すると色が変わるところでジャギー(階段状のギザギザ)が生まれ、処理が大変だったという。

だが、いまは元の絵は高解像度のデジタルデータで持ち込まれることが多く、あの頃に比べれば作業の手間はほんの少し減った。

いま2人の仕事は、色の分解から始まる。この絵にはいったいいくつの色が使われているのか。その色を織物でどう出すのか。コンピューターのアプリに任せるという選択もあるが、

「まだ能力が低くて使えません。やってみたことはあるのですが、ここのメンバーの誰ひとりとして、『これでもいい』とは言いませんでした」

だから、手作業である。

どの色を組み合わせるか。打ち合わせをする千夏さん(左)と前田寿美恵さん

織機も進化したとはいえ、いまでも緯糸に使えるのは12色が限界だ。元の画像に使われている数十、時には100を越える色を、たった12色で表現しなければならない。織物の層は4層である。黒と赤を重ねれば茶色になるが、この茶色は黒を何層目に、赤を何層目に入れればいいか。薄い紫を出すのに赤と青の重ね方をどうするか。元の画像に使われている色を見ながら、一つ一つ決めていかねばならない。そもそも、赤、青、黄色といってもそれぞれ沢山の彩度がある。目の前に或る画像に最適な赤、青、黄色を選び出さねばならない。

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