曲げる 松平鉄工所の2

(この凹型と凸型で鋼を曲げる)

【曲げる】
ベンディングマシンの機構は極めてシンプルだ。平らな作業台があり、真ん中にやはり鋼で出来た凹型と、先が尖った凸型が出ている。この凹型に平板を固定し、凸型を足で操作して凹型のくぼみの部分に押し当てて少しずつ平板を曲げていき、指定通りの型に仕上げる。最後に必要なところを溶接すれば抜き型の出来上がりである。

(ベンディングマシンの下にあるペダルで凸型を操作する)

曲げすぎたと思ったら手で伸ばし、もう一度ベンディングマシンで曲げればよい。急角度に曲げるときはバーナーで熱して柔らかくしてからベンディングマシンにかける。
どう見ても単純な作業である。だが、単純だから優しい作業であるとは限らない。中華料理の世界では、チャーハンの味で料理人の腕を測ると言われる。最もシンプルな作業が最も腕の違いを見せつけるのである。

平板の両方に刃が付いた抜き型を頼まれることがある。靴や手袋など左右があるもののパーツを1つの抜き型で切り抜く道具として使うものだ。両刃の抜き型は上も下もまったく同じ形をしていなければ、1つの抜き型で左右のパーツを作ることはできない。つまり、平板の上下の線に対し、曲げるところは正確に直角になっていなければならない。

——両刃の平板を作業台に強く押しつけて曲げてやればいいのではないですか?

「いや、人間の感覚なんて大変あてになることもあるけど、まったくあてにならないこともある。それに機械だって使っていれば狂う。正確に曲げたと思っていても、両端を溶接しようとするとずれていることがあるんですよ」

両端がずれていれば、出来上がった抜き型の上で抜いたものと下で抜いたもの形が完全に対象にはならず、誤差が出る。だから松平さんは、こんな注文が来ると曲げ作業の途中で何度も平板を凹型から外し、平台の上に一方を乗せて狂いがないかどうかを確かめる。少しでも狂いがあれば凹型や突起が狂いなく正しい位置に止まっているかどうかを調べるのである。

「ホンのちょっとの狂いならお客さんは何もいいませんが、なんか気分が悪くてね」

客ではなく、自分が納得できるものを作る。職人魂の宿るところだ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です