刈り取る 蛭間シャーリングの1

一連の作業の中で、事故のほとんどは準備段階であるカット作業で起きる。

・切り残しの糸が出る。

・生地を切り裂いてしまう。

・切れなかった糸が機具に引っ張られて抜けてしまう。

これがシャーリングの3大事故である。

(シャーリングの事故。生地がパックリ口を開けている)

そして蛭間昌久さんが経営を受け継ぐまで、シャーリング工程で事故が起きるのはやむを得ないという暗黙の合意が業界にあった。作業を急げばどうしても機具が生地に引っかかったり、切れ味の落ちた刃が糸を引っ張ったりする。事故が起きると、注文主の機屋さんに罰金を払う。

「ええ、月に500万円の売り上げがあったとすると、毎月100万円内外の罰金を払うのは当たり前、という風潮がありました。もったいないでしょ? だから親父と『なんで事故が起きないような工夫をしないんだ?』と言い合いをすることはしょっちゅうで、それでも親父は『しょうがないんだ』と言い続けていました」

20歳で家業に入った蛭間さんは数年後に経営を実質的に受け継ぐと、直ちに改革に取りかかった。蛭間シャーリングから事故をなくそうというのである。

トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長がこんな話をしたことがある。

「自動車というのは、製造ラインを離れた後で検品して不良車両を省くようなやり方じゃダメなんです。ラインの各部署で絶対に不良品が出てこないような工夫を重ね、ラインオフした車は検品せずにユーザーにお渡しできる品質に作り込むのが我々の仕事なんです」

生産の全工程で品質管理を厳しくし、絶対に不良品は出さない作業工程を創る、ということだろう。
「トヨティズム」とも呼ばれるトヨタ生産方式は最先端の経営手法として、いまや世界中の製造業だけでなく、様々な職種に広く取り入れられている。
当時の蛭間さんにはトヨティズムの知識はなかった。だが、自力で「トヨティズム」を始めた。いや、独自開発だから「ヒルミズム」と呼ぶべきだろうか。

写真:シャーリング機の前に立つ蛭間さん

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