ガラパゴスの逆襲 坂井レースの2

【カタログハウス】
窮すれば通ず。ずっと取引がある帝人が、旭化成のあとを受けて遮熱糸の生産を始めた。これで糸の心配はなくなった。
間もなく、通販生活で知られるカタログハウスから

貴社の遮熱カーテンをうちで売りたい」

と声がかかった。坂井レースの遮熱カーテンは群馬県の「一社一技術」に選ばれ、県のホームページに掲載されていた。それを見たのだという。
カタログハウスは当時、片面にステンレスを蒸着した遮熱カーテンを売っていた。光を遮るので室内は暗くなるが遮熱率は55%あり、冷房効率が上がるためそれなりの需要があった。

「当社で販売するには、遮熱率はこれを上回っていただきたい」

それが条件だった。

カタログハウスは通販の王者といわれる。売り上げは決して首位ではないが、独特の販売方法、消費者満足度はあらゆる通販会社が羨ましがる。その評価を支えるのは独自の商品選択眼で、メーカーが

「うちの製品をラインアップに加えていただきたい」

と日参してもなかなか採用されないことで知られる。そんな会社からの異例の申し出である。断るいわれはない。

カタログハウスは国内での販売権を独占する手法を採る。つまりカタログハウスでの販売が始まれば、坂井レースはほかの流通経路では売ることができず、帝人も坂井レース以外のカーテンメーカーへの糸の販売を制限される。
そんな制約はあるが、チャンスであることは確かだ。坂井さんも帝人も、この条件を呑んだ。坂井レースの遮熱カーテンは遮熱率で既存商品を上回るだけではなく、透光性があって部屋を暗くしないのである。売れないはずがない。

販売が始まったのは2011年。カタログハウスの計測では、坂井レースの遮熱カーテンの遮熱率は64%。既存商品を完全に上回っていた。だからだろう。文字通り、羽が生えたように売れた。坂井さんは増産に次ぐ増産に追われた。

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