ガラパゴスの逆襲 坂井レースの1

[レース]
編み物。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を組み合わせて作る織物に対して、編み物はループ状にした糸同士を絡ませながら布に仕上げる。縦横に延び縮みし、カーテンや靴下、マフラー、衣服などに使われる。
坂井レースはレースカーテンの専業メーカーである。オーダーカーテン、既製品のカーテンと幅広く作っているが、いまの主力は窓から入る太陽熱を跳ね返す遮熱カーテンである。開発で先陣を切っただけでなく、改良を繰り返して遮熱率を上げ、当初の60%をいまは71%まで高めた。後を追おうとする後発メーカーもあったが、矢継ぎ早に性能を上げる坂井レースについてくることができず、次々と撤退した。坂井レースはいま、ワン・アンド・オンリーの遮熱カーテンメーカーである。

[カーテン需要]
レースのカーテンは住宅の必需品ともいえる。だが、一度買ってしまえば8年から10年はもつ。そろそろ買い換えようかと客が考え始めるまでかなり時間がかかる商品だ。だから、カーテンの需要は住宅着工戸数に左右される。
戦争が残した荒廃から急スピードで立ち直りを見せた戦後日本で住宅建設はほぼ一貫して伸び続け、1973年には190万5112戸にまで増えた、高度成長の終焉で驚異的な伸びが一服したあとは景気の波にも左右されながら高い水準での上下を繰り返してきたが、リーマン・ショック直後の2009年、前年を30万戸も割り込む78万8410戸に急落した。一時的な落ち込みという見方もあったが、その後は100万戸を回復することはなく、2019年は90万5123戸。国内で人口が減り始めたこともあり、これから住宅着工数が増えるのは望み薄である。
その上、ほかの繊維産業と同じ構造変化にも見舞われた。カーテン販売の中心であるDIY店が安さを追い求め、中国、ベトナム産のカーテンを並べるようになった。国内のカーテンメーカーは利益率を落として対応しようとしたが、中国、ベトナムの人件費の安さには対抗しきれず苦境に陥った。
坂井勝さんが社長を引き継いだ2004年、業界はそんな二重苦の入り口に立っていた。

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