カフェラルゴ 第2回 夢

桐生第一高校調理科を卒業した渉さんは中学時代から仲間とバンドを組むギター少年だった。高校時代にはJR 桐生駅前で友人と2人、アコースティックギターをひっさげて路上ライブを始め、卒業後は音楽活動にのめり込んだ。CDも出し、高崎市や太田市のFM局で番組を持つようになったのは2006年のことである。

だが、音楽でメジャーデビューを果たすのは限りなく狭い道だ。地元の鉄鋼会社に勤めながら土日の音楽活動を続けていた渉さんはなかなか大通りが見えてこないことに焦れたのか、いつしか、

「いずれは経営者になりたい」

という願いを持つようになっていた。

綾子さんは札幌で生まれた。5歳からピアノを始め、札幌大谷大学音楽学部音楽学科4年の時、ナベプロのオーディションに合格。東京で開かれた本選にも通り、卒業を待って上京、シンガーソング・ライターを目指した。

音楽が2人を繋いだ。初めて会ったのは2008年、東京のライブ会場だった。すれ違っただけだったが、2年後には付き合いを始め、急速に惹かれあってそれから半年もたたないうちに婚約した。

「桐生でも音楽活動は続けられるから」

という渉さんの「口説き」文句が決め手となって同棲を始め、翌年7月に結婚した。そして間もなく、最初の子を身ごもった。2人は心がふるえるほど嬉しかった。生まれてくる子を立派に育てなくっちゃ!

初めての、友達もいない桐生での妊娠は相談相手もなく、不安の固まりだった。予定日の2ヶ月前に札幌の実家に戻って落ち着き、2012年12月に長男貴弦くんを産んだ。体重3400グラムの元気な子だった。

出産が終われば次は子育てである。母にたくさんのアドバイスをもらい、生後1ヶ月の貴弦くんを抱いて桐生に戻ったのは年明けである。あれほど母に教えてもらったのだ。あとは自力で育てられるはず。

「私に育てられるかな?」

という妊娠初期に襲われた不安からは解放されたはずだった。

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