灯台下暗し 鍋谷建具点の3

【グランプリ】
職人は不器用な方が伸びるといわれる。器用な人は短時間で技を身につけるが、

「これでいい」

と慢心するのか、そこで止まることが多い。不器用な人はその何倍も時間をかけないと同じことが出来るようにならないが、できるまで何度も失敗を繰り返すうち、体が技を消化し、繰り返した失敗数々が熟成して師匠を超える技が生まれる、という経験知である。

鍋谷さんは子どもの頃から不器用だった。学校の図工で作った物はいつもグチャグチャ。本立てを作っても、まともに使えるものが出来たことがない。
それでも、本立てよりはるかに難しい技がなければできない建具屋という家業を継ごうと思ったのは、

「そんなものだろう」

と漠然と思っていたからだ。高校を出るとすぐ、栃木県鹿沼市の建具屋に3年間の修行に出た。終えると実家で建具づくりに励んだ。

「おい、技能グランプリってのを見に行こう」

と桐生市内の同業者に誘われたのは30歳前後のことである。数人で千葉まで出かけた。実技を見ていて意外な思いがわき上がった。

「俺もここで出場者の皆と技を競ってみたい!」

何故そんな気になったかはよく分からない。

「練習すれば自分も時間内に課題を仕上げられるんじゃないか?」

と準備を重ねた鍋谷さんが初めて出場したのは2005年である。

技能グランプリは、2ヶ月前に図面を渡される。1日の仕事が終わるとその図面を見て練習し、10数個の試作品を作る。当日は使い慣れた道具でワゴン車を満杯にして会場に行く。競技は2日間にわたり、制作時間は11時間半。その出来映えで順位が決まる。

初出場で3位に入った。
2度目の出場は2011年。今度こそグランプリを狙った。ところが、切り間違った材料を取り換えたのが減点対象になり、3位。2013年は使ってはいけない道具を知らずに使って減点され、やはり3位。だが、2度目の出場からは場内の見学者がいつの間にか鍋谷さんの仕事を見ようと周りに集まるようになっていた。
だが、万年3位。このまま終わるわけにはいかない。

金賞を取った衝立にほどこした組子。

「これが最後だ」

満を持して迎えた2015年の大会。これまでの失敗を生かして減点はなく、みごとに金賞、内閣総理大臣賞を受賞した。最高位に駆け上ったのである

鍋谷建具店に、注文住宅用に1枚100万円、150万円といった高級ドアや襖などの注文が絶えないのは、鍋谷さんの技が高く評価されているからだろう。

2021年秋には全国技能士連合会のマイスター認定を受け、後進の育成にもあたっている鍋谷さんが、畑違いの刺繍枠を作った。織都桐生を支える技は、繊維に携わる人達だけのものではないのである。

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